学校にも家庭にも居場所を失った僕は、もうどうしようもなくて、
自分のことを誰も知らない場所に行きたかった。
一人になりたかった。
そこで企てた、家出計画。
中3で家出
学校にいても苦しいし、
家族といても苦しい。
もうとにかく全てから逃げたかったんだよね。
それで家出を計画した。
時期は夏休み。
お金もないから、移動は自転車。
計画は18時間(笑)。
ビビりだから24時間を超えない(笑)。
食料はスナック菓子とかチョコ。
当時はスマホもなかったので、古本だったけど地図も買った。
方位磁石も買って、着替え、ウォークマン(懐かしいw)、タオル、電池、懐中電灯、とか、ぜんぶリュックに詰めた。
なんかもう冒険気分(笑)。
それで決行前日に、自分の部屋をきれいに片づけたんだ。
床の上も、机の上も、ぜーーんぶキレイにして、何にも置かない。
そして机に封筒を置いた。
置き手紙。
なんて書いたか、今でも覚えてる(笑)。
「翌日の夕飯までには帰ってくる。面倒なことにはしたくないから、警察とか学校には知らせるな」
って内容(笑)。
勇気がない僕なりの最大限の反抗だった。
そして深夜1時。
僕の部屋は一軒家の2階。
ベランダから、ひもを使ってリュックを1階の庭に静かに降ろす。
ベランダの窓にはオートロックのようにカギが閉まるような仕掛けを施した。
窓を外から閉めたら、もう後戻りはできない。
静かに窓を閉める。
カチャ。
うまくカギがかかった。
ベランダの柵をよじ登り、屋根の上を歩いて、電柱に飛び移る計画だ。
ジャッキーチェンのポリスストーリーの気分(笑)。
ジャッキーと同じように、「ヤァッ!」って叫ぶ。心の中で(笑)。
電柱に飛び移ったとき、少し胸を強く打ったけど、なんとかうまくいった。
静かに電柱を伝って降りて、さっき降ろしたリュックを背負い、
あらかじめカギを開けておいた自転車とともに、静かに夜の街に進み出た。
灯かりの下で自分の服を見たら、胸のところが少し黒く汚れていた。
電柱の汚れだ。
すぐTシャツを着替えたかったけど、リュックを見たらなんとTシャツがない。
え・・・なんでないんだ?
忘れてきたのか・・・くそ。
まぁでもドンマイだ。
それよりこれから一人になれる最高の時間が待ってる。
もう家には戻れない。
進むしかない。
そこから自転車でとにかく南に向かった。
ウォークマンで音楽を聴きながら、
警察の見回りを避けるように、住宅街を抜けて走った。
時計と星の位置で大体の方角は分かったから、少し迷っても大丈夫。
夜明け前に、ある大きな街についた。
夏休みとはいえ、世の中は平日だ。
道路の隅に山積みになったゴミ袋を狙って、カラスが飛び始めている。
まずい。
街が動き出したら、
そこにいる僕はみんなの目にどう映るんだろう。
不審な子どもを見て、誰かが通報しやしないか。
そこから人のいない道に進んだ。
大きな国道の裏道のような、クネクネした道だ。
そして別の大きな街を目指した。
途中でファーストフード店に寄って、朝ご飯を食べた。
よく覚えてる。あの街の、あの店。
今でもあの店の前を通ると、あの時のソワソワした軽い興奮と不安が入り混じった空気がよみがえる。
午前9時を回ると、どんな道を走ろうと、あとは平気だった。
自転車に乗りながら考えていたこと
深夜1時に家を出て、自転車に乗りながら、
ひとりでいろんなことを考えてた。
まず心を占める感情は、これが大部分だった、
「楽しいー!!」
もう本当に楽しかった(笑)。
誰の言葉も気にせず、
自分の好きな顔をして、
思ったことを口にして(独り言を言っていたw)、
自由にどこへ行ってもいいっていうのが、こんなにも気持ちがいいもんなのか。
世の中の人たちは、たぶん僕みたいな悩みなんて抱えずに、
こうして自由に考えて、思ったことを口にして生きてるんだ。
そしてそれが周囲に認められて、笑ってもらえて、ハッピーを感じるんだ。
そう。
楽しかったのは最初のうちだけだった。
次第に、
「僕はなんて不幸なんだ」
って思うようになった。
僕はどんだけ頑張っても、結婚もできない。子どもも作れない。家族も持てない。
親に孫の顔を見せてあげられない。
幸せになれない。
僕はこれからどうやって生きていけばいいんだろう。
結婚しないまま、なんとなく彼女がいないこともごまかしながら、
その日ぐらしの毎日を送っていけばいいのかな。
クラスの○○くんとか○○くんも結婚して、家族を作っていくけど、
僕だけはずーっと一人で生きていくのかな。
あ、つらいな。
なんでぼくだけ?
みんなとちがうじんせいなの?
夜道を走りながら泣いた。
まぁとにかく自分の人生を悔やんだ。
悔やんで悔やんで悔やんで悔やんで悔やんだ。
こういう境遇を与えた神様がいるなら、ぶっとばしてやりたいくらい。
恨みつかれたら
家出の前半、ずーっと神様を恨んでました(笑)。
そしたらね、やっぱり人間っていつまでも恨み続けられないもんで、
疲れちゃったの(笑)。
もう神様を恨んだところで、事態は改善されないことは分かった。
かといってテレビで見るようなオカマになる気持ちも、まったくない。
それじゃあ、僕の、この人生は、
誰も参考にできない、完全に自分でカスタマイズして切り開いていくしかない。
って思ったんだな。
そうか。
なるほど。
そういうことか。
それならいいよ。
やってやるよ。
だってさ、
結婚したって、離婚するやヤツだっているし、
心中する家族だってある。
親が子を殺したり、子が親を殺す家庭だってあるんだ。
結婚して家族を作ったって、
100%幸せになれるとは限らない。
幸せは、結婚することで手に入るもんじゃない。
自分で作り上げるんだ。
ぜってぇー、作り上げてやる。
多分泣いてました。
半分、自分の人生を恨んで、
半分、やってやる!って気持ちで。
ペダルを漕ぐ力が強くなっていったのを覚えてます。
途中、上り坂で、
「ぬぅぅぅわああああぁぁぁぁーー!!!!」
って言いながら「こんなんで負けねぇからなーー!!!くそーーーーー!!!!!」って言ってた気がする(笑)。
家に帰って
夕方になって、家に向かった。
ずーーっと自転車で走ってたから、
体中がクタクタ。
家の前に来ると、家の玄関は、いつもの玄関。
家の灯かりがついていて、たぶん母親が夕飯の支度をしてる。
ポケットからカギを出して、
玄関のカギ穴に近づける。
すごくドキドキした。
何て言われるんだろう、怒られるかな、いや怒られるだろうな、当然だよ、だって家出だもん。
でも夏休みだし、普通に外を出歩いていただけだよ。
ちゃんと帰ってくる時間も手紙で伝えたもん。
お父さんとお母さんは、
僕の、この家出を、
どう捉えるんだろう。
カギをそっと回して、ガチャッと鳴った。
扉を開けたとき、もうなるべく普通を装うしかないと覚悟を決めた。
「ただいまー」
奥の台所にいるんだけど、声は帰ってこない。
若干の気まずさを飲み込んで、台所に進む。
そしてもう一度、
「ただいま」
と言った。
母親が夕飯の支度をしながら、
「あ、おかえり。ご飯だから手、洗って」
「んー」
・・・普通だ。
この日、すべてのことは普通に進んだ。
父親が帰ってきて、弟もテーブルについて、母親、家族4人でいつも通り、
夕飯を食べた。
ただ、それだけ。
それからも普通にテレビを見て、お風呂に入って、寝た。
そこまでは普通だった。
夜、布団に入って、
眠りに落ちようとする頃、
隣の部屋の弟が、僕の部屋をノックした。
「お兄ちゃん、いい?」
珍しい。なんだ。俺はお前に何か迷惑をかけた覚えはないぞ。
「んー」
「お兄ちゃん、今日、家出したじゃん。あれ大変だったんだよ」
弟の話をまとめると、こうだった。
朝、起きてこない僕を叱ろうと、
2階の僕の部屋に来た母親は、
僕の部屋がきれいに片付いて、僕がいなくなっているのを見て、
言葉にならない気持ちが込み上げてきたのだそうだ。
もちろん、手紙も読んだらしい。
そこで、
父親も母親もその日の仕事を休み、
僕の写真を持って、
市内の鉄道の駅という駅(15駅くらいはある)を探して歩いたのだそうだ。
駅員に僕の写真を見せて「こういう子を見ませんでしたか?」という具合いに。
僕は「やりすぎた・・・」と思った。
僕は家に居場所はないと感じていた。
僕はゲイで、世の中の人たちの小さな一言が、僕の目の前にたくさん積み重なって、
生きていくのがしんどい。
学校にも家にも、居場所がない。
僕は、両親にそのような理由こそ手紙では伝えられなかったが、
僕の息苦しさは、十分すぎるほど伝わった。
だから両親は、僕を叱ることもなく、
黙って、僕の帰りを待ってたんだ。
両親が、僕の家出を心配して、僕を叱ったとしたら、
それは両親の不安を子どもにぶつけることになる。
でもそれをせず、
家出に込めた気持ちを、細かい理由こそ分からないかもしれないが、受け止めてくれた。
僕の居場所は、ここにあった。
まだ両親は僕の秘密を知らないけど、
知らないから傷つけちゃうこともあるかもしれないけど、
何があっても味方でいてくれる。
俺は親不幸なことをしたな・・・
もっと普通に伝えればよかった。
家出なんてせずに。
他の方法はあったはずだ。
でもこの家出を通じて、
僕は両親の愛情を強く感じることができたし、
両親も僕の思いを受け止めようと、改めて思いなおすことができたように思う。
ただ、家出はやりすぎだったな(笑)。
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